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PFAS禁止に反対する化学業界の主な主張を支える根拠は、存在しないOECD声明

 欧州でPFASの禁止が議論される中、反対意見を持つ業界の主な主張は、「特定のPFASについて懸念は低い」というOECD(経済協力開発機構)の声明に基づくものです。しかし、OECDがこのような声明を発出した事実はありません。

 化学業界は長年、OECDを頼りにしてPFASの中の重要なサブグループであるフッ素樹脂の規制フッ素樹脂の規制に反対する姿勢を強めてきました。産業界による科学的なレポート、説明会、ロビー活動、ウェビナーでは、フッ素樹脂はOECDの観点から「低懸念物質」と考えられるという主張がなされてきました。この主張の唯一の問題は、OECDがこのような声明を発出したことはないということです。実は、最近の声明で、OECDは、低懸念ポリマーの基準はもともと存在しなかったと説明しています。

PFASの禁止

 EUのPFAS規制案は、世界の化学企業の間で騒動を引き起こしています。現在のところ、化学物質を一つ一つ規制する従来の方法とは対照的に、問題となっている非常に膨大な化学物質群を禁止するという具体的な提案が議論されています。

 今やPFAS汚染問題は無視できないようになっており、禁止は正当化されます。欧州では少なくとも17,000か所がPFASに汚染されており、多くの住民は推奨された安全基準を超えるPFASを含む飲料水を飲んでいます。

 とはいえ、PFAS用途の中には、必要不可欠で代替物質の存在しないものについて、法律の適用除外とされる可能性が高いです。PFAS禁止をめぐる議論が激化するにつれ、産業界の多くは自社の特定の用途が社会にとって最も重要であり、代替手段がまったくないことを主張し、禁止に強く反対しています。

 最も議論されているPFASの一つは、プラスチックであるフッ素樹脂です。フッ素樹脂の工業的用途は、数千の数があるとされています。その他、テフロンのように消費者向け製品にも使われています。フッ素樹脂が広く使用されていることから、業界はこれらの化学物質を市場で流通させるためにあらゆる手段を試みています。

OECDは利害関係者が望むような楽園なんか保証できなかった

 化学業界は長年にわたり、自らの主張を補強し、独立した立場から信頼性を与えるために、「低懸念」と分類されるOECDのフッ素樹脂の定義を参照してきました。例えば、科学的なレポート公式声明ブログ記事ビデオ等の中に出典としてOECDを直接引用する場合があります。一方、プレゼンテーションや会議などでは、「国際的に合意された定義」という曖昧な言葉が用いられています。OECDの定義上「低懸念」と分類されるフッ素樹脂に関する考え方は、誰もが知っているように、あまりにも長い間議論を通して社会に浸透してきたため、論争にすらなっていません。

 さて、OECDの声明が真実かどうかをチェックすることはずっと前から可能です。当団体も他の関係者も検証しました。しかし、この声明を否定すれば、陰謀論者及び地球平面説を信じる人たち(間違っていたり廃れてしまった考え方に固執する人間)と見なされます。また、出典が求められると、目を丸くします。だからこそ、OECDの最近の声明は、少々複雑に書かれていますが、非常に歓迎すべきことです。

では、OECD声明の内容について何だろうか

 1990年代、OECDはポリマーを定義することに努め、「低懸念ポリマー」の基準を検討しました。合計7つの異なる基準が提案されましたが、合意には至らず、OECDの基準は定義されていません。その後、米国、カナダや中国などを含む数か国は、多少異なるものの、低懸念ポリマーの国内基準を制定しました。

 誰かがOECDの定義に言及し、フッ素樹脂は問題がないと言ったとしても、それを信じてはいけない。

 2007年、OECDは、国際基準を設けることがこの時点で必要とされるかどうかを確認するため、ポリマー問題を再検討しました。2009年に発表された報告書の主要な結論は、ポリマーの全般的な危険有害性に関する情報が不足していることです。その後、OECDは共同基準の開発を追求しませんでした。

 とはいえ、フッ素化学業界は「OECDの低懸念ポリマーの基準」に言及する際に、引続き上記のOECD報告書を参考文献として引用します。また、フッ素化学業界は独自の研究を行い、この存在しない基準に照らしてフッ素樹脂を比較した結果、(驚くことなく)フッ素樹脂は低懸念物質であることと判明しました。

 これは、科学界で大きな批判を浴びています。誤解を招くようなOECDへの言及のためというよりも、産業界によって使用された基準で低懸念ポリマーを特定することは十分とは言い難い状況にあるからです。これは、製造過程や廃棄の段階での排出も、他のPFAS又はマイクロプラスチックの潜在的な放出を含む使用段階に関連する問題も、対象として考慮に入れません。

 したがって、PFASをめぐり議論が激しさを増す中、OECDの定義、或いはフッ素樹脂が問題ないという「国際的に合意された」基準に言及して、それを鵜呑みにしてはいけないことを覚えたほうがいいでしょう。

(注意:この記事に記された内容や意見は、著者の個人的見解です。)


 本記事の著作権は、2002年に設立された国際化学物質事務局(ChemSec)に帰属します。なお、記事を日本語に翻訳して掲載することについて、当社とChemSecとの間で合意がなされています。ChemSecは、有害化学物質をより安全な代替品に置き換えることを提唱し、独立した非営利団体として活動しています。転載元:ChemSec

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