II. 危険化学品安全管理条例(安衛法、毒劇法、消防法などに相当)
中国での危険物に係る法令は、そのほとんどが危険化学品安全管理条例に包括されていると考えてもよいでしょう。いつも日本企業を悩ませるSDSやラベルもこの条例が根拠法になります。中国では法律(条例)が頻繁に改訂されているのではなかろうかという声をよく耳にします。しかし、実際には2011年に施行された中国国務院第591号令(危険化学品安全管理条例の現行版)が施行されて以来、大きな改定は行われていません。中国では、法令の施行後、全国津々浦々に浸透するまでには年単位の時間がかかる傾向が見受けられます。いわゆる過渡期に当たる期間が存在します。この過渡期に、前回と今回とでは中国役人の見解が異なるなどの疑念を感じてしまう結果となり、日本人にとっては中国の法令が頻繁に変わっているのでは?と思わせてしまうのかもしれません。いかんせん日本の25倍もの広大な国土と10倍以上の人口を考えれば納得できそうです。運用開始のタイムラグは地域差にもあります。えてして、首都北京に近い地域(天津など)では運用開始までのタイムラグは小さく、かつ厳密に運用される傾向が強く、上海周辺では運用開始は遅れ、かつ緩い傾向が見られます。
危険物の考え方が日本と大きく異なる点は、大陸なのか海に囲まれた島国なのかによる違いが影響しています。すなわち、中国での危険物は、国連危険物の考え方に準じています。対して日本は、海外との接点は鉄路・陸送や河川を使った運輸はありません。よって、島国独自の法律が出来上がってきたようです。ここでもガラパゴス化です。日本企業が当たり前と感じている危険物の考え方がむしろ特殊だと意識したほうが理解しやすくなります。例えば、引火性液体とは、日本の消防法では250℃未満が引火性液体に該当します。一方危険化学品安全管理条例が定める国家標準(強制力のあるJIS規格のようなもの)”GB13690-2009化学品分類と危険性公示 通則”では93℃以下が引火性液体に該当します。ラベルを必要とする引火性液体は、引火点61℃(国連危険物、GHSでは60℃)以下がラベルの対象です。GHS分類では引火点60℃以下が中国は、貨物の移動が海上、航空(日本が意識するのはこの2つだけ)以外に、陸送、河川輸送も考慮する必要があります。国土も広大であり、中国一国で大陸間移動をしているようなものです。よって、危険物の考え方は国連危険物のそれに近いものになると考えるのが自然です。これは日本国内企業にとっては想像しがたいことかもしれません。
表1 中国の法体系
今さら聞けない中国向け化学品輸出(シリーズ2・危険化学物質)