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残留性有機汚染物質に関する規則(欧州POPs規則)(EU)2019/1021

1.EU POPs規則とは

 残留性有機汚染物質(POPs)とは、環境中での残留性・生物蓄積性、人の健康や環境に悪影響を及ぼす有機物質のことを指します。POPsには、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)等の農薬、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)やターフェニル類(PCTs)等の工業用化学品、ダイオキシン類とフラン類など工業プロセスにおいて非意図的に生成される副産物が含まれます。難分解性を有するこれらの物質については、空気・水・移動性生物によって国境を越えて運ばれることが可能となります。

 これをうけ、POPsは「ストックホルム条約(POPs条約)」及び「1998年重金属に関する議定書(オーフス議定書)」の下で世界的に規制されています。欧州連合(EU)はこれらの国際条約の締約国としての義務を履行するため、2004年にはじめての欧州POPs規則を制定・施行し、2019年の改正を経て、現在に至っています。

1.1 特定の管理措置

 欧州POPs規則は、次に掲げる管理措置を通じて、人の健康や環境を保護することを図っています。

  • POPsの製造、市場流通、使用を禁止または厳しく制限;

  • 産業副産物として生成されたPOPsの環境への排出を最小限に抑制;

  • 制限されているPOPsを含むストックパイル(在庫)が安全に管理されていることを確認。

1.2 最近の動向

2.対象物質

 欧州POPs規則の対象物質リストには、4つの附属書が含まれており、それぞれ特定の措置および/または報告要件が定められています。詳細は下記の通りです。

  • 附属書I:製造・上市・使用が禁止される物質;

  • 附属書II:製造・上市・使用が制限される物質;

  • 附属書III:排出の削減対象物質;

  • 附属書IV:廃棄物管理規定の対象となる物質。

 そのうち、附属書IのパートAには、ストックホルム条約(POPs条約)又はPOPs議定書の両方に収載されている物質、及びPOPs条約にのみ収載されている物質が含まれています。そして、欧州POPs規則に物質を新たに追加する場合には、事前にPOPs条約又はPOPs議定書に掲載される必要があります。

3.主要な義務の内容

 使用した地域から遠く離れた地域に移動し、残留性・生物蓄積性を持っているPOPsは、生態環境或いは人の健康を損なうリスクをもたらすもので、POPs 規則によりEU域内での生産・使用が禁止または厳しく制限されます。これを踏まえて、関連業者に対して、次のようなことが求められています。

  1. 附属書Iに記載されている物質そのもの、物質を含む混合物、又は物質を含む成形品の製造・上市は禁止されます;

  2. 附属書IIに記載されているPOPsの製造・上市・使用は、安全で効果的、かつ安価な代替品が当該国で入手できない場合における用途が限定されます。

注意:POPs規則第4条(1)に定める適用除外の概要は次の通りです。

  1. 実験室規模の試験研究用、参照の標準用物質;

  2. 物質、混合物又は成形品中に、附属書I又は附属書IIに規定される意図しない微量汚染物質として存在する物質。

4.PFAS類の規制

4.1 現時点での規制

 2020年6月に欧州委員会委任規則 (EU) 2020/784が発行され、POPs規則附属書IのパートAにペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩およびPFOA関連化合物が追加されました。これをうけ、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びPFOA又はその塩やそれらの関連物質については、POPs規則附属書により製造や使用等が禁止されると同時に、様々な適用除外や特例事項も規定されています。

 詳細は次のとおりです。

1.PFOS及びその誘導体

  1. CAS番号:1763-23-1、2795-39-3、29457-72-5、29081-56-9、70225-14-8、56773-42-3、251099-16-8、4151-50-2、31506-32-8、1691-99-2、24448-09-7、307-35-7等。

  2. EC番号:217-179-8、220-527-1、249-644-6、249-415-0、274-460-8、260-375-3、223-980-3、250-665-8、216-887-4、246-262-1、206-200-6等。

  3. 適用除外および例外措置

適用除外

 PFOS及びその誘導体は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する次の場合を除外する規定があります。

  • 物質又は混合物の中に10mg/kg(0.001重量%)以下

  • 半製品、成形品又は部品の中に0.1重量%未満

  • 繊維又は他の被覆材については1μg/m2未満

例外措置

  • 2010年8月25日前に使用されているPFOSを含む成形品の使用は許可されます;

  • 環境中での放出を最小限に抑えれば、クローズドループシステムにおける非装飾的な硬質クロムメッキ用ミスト抑制剤の使用を目的とした製造と上市は、2025年9月7日まで許可されます。

2.PFOAとその塩及びPFOA関連化合物

  1. CAS番号:335-67-1等

  2. EC番号:206-397-9等

  3. 適用除外および例外措置

適用除外

 PFOAとその塩及びPFOA関連化合物は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する次の場合には適用除外となります。

  • 物質、混合物又は成形品に含まれるPFOA又はその塩の濃度が0.025mg/kg(0.0000025重量%)以下;

  • 物質、混合物又は成形品に含まれるPFOA関連化合物又はそれらの組み合せの濃度が1mg/kg(0.0001重量%)以下;

  • (*)6原子以下の炭素鎖を持つフルオロケミカルの製造において、PFOA関連化合物がEU REACH規制第3条15項(c)に定める輸送単離中間体として使用される物質中に存在する場合、濃度は20 mg/kg(0.002重量%)以下;

*注意:この適用除外は2023年8月25日(2022年7月5日)までに欧州委員会によって審査・評価される予定です。(CL-JP記事をご参照)

  • 電離放射線照射または熱分解によって生成されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)マイクロパウダー、及びPTFEマイクロパウダーを含む工業用・専門的用途の混合物および成形品中に存在するPFOAとその塩の合計の濃度制限を1mg/kg(0.0001重量%)にする場合には、2023年8月18日までに製造・上市・使用禁止が適用除外;

  • (*)侵襲型機器及び埋め込み型器具以外の医療器具に含まれるPFOA、その塩及び/又はPFOA関連化合物の濃度が2 mg/kg(0.0002重量%)以下。

*注意:この適用除外は、2023年2月22日までに欧州委員会によって審査・評価される予定です。

例外措置

  • 0.025mg/kg(0.0000025重量%)の制限値以下にする目的で輸送または処理されるPTFEマイクロパウダーに含まれるPFOAとその塩の場合には、1mg/kg(0.0001重量%)の制限値が製造・上市・使用のみに適用されます;

  • 以下の用途として、PFOAとその塩及びPFOA関連化合物の製造・上市・使用が許可されます。

  1. 2025年7月4日まで、半導体製造におけるフォトリソグラフィーまたはエッチングプロセス;

  2. 2025年7月4日まで、フィルムに施される写真用コーティング;

  3. 2023年7月4日まで、労働者の健康と安全を害する危険な液体から作業用保護のための撥油・撥水繊維製品;

  4. 2025年7月4日まで、侵襲性及び埋込型医療機器;

  5. 以下の製品に用いられるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造については2023年7月4日まで許可されます。

  1. 高機能性の抗腐食性ガスフィルター膜、水処理膜、医療用繊維に用いられる膜;

  2. 産業用廃熱交換器;

  3. 揮発性有機化合物及びPM2.5 微粒子の漏洩防止可能な工業用シーリング剤。

  • 移動式および固定式を含むシステムに既に設置されている液体燃料の蒸気抑制及び液体燃料火災用のクラスB消火用泡でのPFOAとその塩及びPFOA関連化合物の使用については、訓練には使用しない、試験にはすべての放出が抑制される場合でのみ使用できる、すべての放出が封じ込める場所でのみ使用できる等の条件を満たせば、2025 年 7 月 4 日まで許可されます;

  • (*)医薬品の製造を目的としたヨウ化ペルフルオロオクチルを含む臭化ペルフルオロオクチルの使用は 2026 年 12 月 31日まで許可されます;

*注意:この例外措置は2036年12月 31日まで欧州委員会によって審査・評価される予定です。

  • 2020年7月4日前に使用されているPFOA、その塩及び/又はPFOA関連化合物を含む成形品の使用は許可されます;

  • 埋め込み型以外の医療機器、ラテックス印刷インキ、プラズマナノコーティングについては2020年 1月3日まで許可されます。

3.PFHxSとその塩およびPFHxS関連化合物

  1. CAS番号:355-46-4等

  2. EC番号:206-587-1等

  3. 適用除外および例外措置

適用除外

 PFHxSとその塩およびPFHxS関連化合物は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する次の場合を除外する規定があります。

  • 物質、混合物又は成形品に含まれるPFHxS又はその塩の濃度が0.025mg/kg(0.0000025重量%)以下;

  • 物質、混合物又は成形品に含まれるPFHxS関連化合物の組み合せの濃度が1mg/kg(0.0001重量%)以下;

  • (*)使用される、又は他の泡消火薬剤混合物の製造用の濃縮された泡消火薬剤混合物中に存在するPFHxS、その塩およびPFHxS関連化合物の濃度が0.1mg/kg(0.00001重量%)以下。

*注意:この適用除外は、2026年8月28日までに欧州委員会によって審査・評価される予定です。

4.2 今後予想される規制

 今後、次のPFAS物質についても、POPs規則への追加及び規制強化が予想されます。

  • 9~14個の炭素鎖を有するペルフルオロカルボン酸(C9-14 PFCAs);

注意:2023年2月25日以降は、C9-C14 PFCAsとその塩及び関連化合物に対する制限がEU域内で実施されるようになります。これをうけ、当該化学品について、ほとんどの用途は禁止される一方、一部の用途はより長い移行期間が適用されます(CL-JP記事をご参照)。

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5.関連記事及びセミナー

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