1.EU POPs規則とは
残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants:POPs)とは、環境中で分解されにくく、食物網を通じて生物に蓄積し、発生源から遠く離れた地域まで国境を越えて移動し得るとともに、人の健康又は環境に悪影響を及ぼすおそれのある有機物質です。POPsには、農薬及び工業用化学品のほか、ダイオキシン類及びフラン類のように工業プロセス等において非意図的に生成される物質も含まれます。
POPsについては、国際的な管理枠組みとして、「ストックホルム条約」及び「1979年長距離越境大気汚染条約の1998年POPs議定書」が設けられています。欧州連合(EU)はこれらの国際条約の締約国としての義務を履行するため、2004年にはじめてのPOPs規則を制定・施行し、2019年の改正を経て、現在に至っています。
2.附属書の構成
EU POPs規則の対象物質リストには、主に4つの附属書が含まれており、それぞれ特定の措置および/または報告要件が定められています。
| 附属書 | 機能 | 詳細 |
| 附属書I | 禁止 |
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| 附属書II | 制限 |
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| 附属書III | 非意図的発生及び放出削減 |
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| 附属書IV | 廃棄物管理 |
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2.1 製造・上市・使用が禁止される物質
現時点で附属書I Part Aに収載されている物質は、下表のとおりです。EU POPs規則第3条に基づき、これらの物質そのもの、物質を含む混合物、又は物質を含む成形品の製造・上市は禁止されます。ただし、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質(UTC)として存在する次の場合を除外する規定があります。
| 区分 | 附属書I Part Aの物質・物質群 |
| 難燃剤 |
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| PFAS | |
| その他の工業用化学品 |
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| 農薬 |
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注意:
(1)上表の区分は一覧性を高めるためのまとめであり、EU POPs規則に定める法的分類ではありません。対象範囲、非意図的な微量汚染物質(UTC)の含有量制限値(ある場合)、適用除外、例外措置、経過措置やその他の適用条件などについては、附属書Iの各エントリーに基づいて判断することが重要です。
(2)欧州委員会は2026年6月30日、クロルピリホス(CAS番号:2921-88-2)をPOPs規則附属書I Part Aに追加する委任規則を採択しました。ただし、当該委任規則はまだ公布・発効していないため、上表には含めていません。
3.事業者が課せられる主な義務
使用した地域から遠く離れた地域に移動し、残留性・生物蓄積性を持っているPOPsは、生態環境或いは人の健康を損なうリスクをもたらすもので、POPs 規則によりEU域内での生産・使用が禁止または厳しく制限されます。これを踏まえて、関連業者に対して、次のようなことが求められています。
附属書I Part Aに記載されている物質そのもの、物質を含む混合物、又は物質を含む成形品の製造・上市・使用はEU域内で原則禁止とされ、POPs規則第4条(1)に定める適用除外、特定の非意図的な微量汚染物質(UTC)としての限度値や重要な分野に対する期間限定的な適用除外及び例外措置などが設けられる可能性もあります。
附属書IIに記載されているPOPsの製造・上市・使用は、安全で効果的、かつ安価な代替品が当該国で入手できない場合における用途が限定されます。
注意:POPs規則第4条(1)に定める適用除外の概要は次の通りです。
実験室規模の試験研究用、参照の標準用物質;
物質、混合物又は成形品中に、附属書I又は附属書IIに規定される意図しない微量汚染物質として存在する物質。
4.PFAS類の規制
4.1 現時点での規制
EU POPs規則では、PFOS、PFOA及びPFHxSの3物質群が附属書Iに収載されています。詳細は次のとおりです。
4.1.1 PFOS、その塩及びPFOS関連化合物
CAS番号:1763-23-1、2795-39-3、29457-72-5、29081-56-9、70225-14-8、56773-42-3、251099-16-8、4151-50-2、31506-32-8、1691-99-2、24448-09-7、307-35-7等。
EC番号:217-179-8、220-527-1、249-644-6、249-415-0、274-460-8、260-375-3、223-980-3、250-665-8、216-887-4、246-262-1、206-200-6等。
適用除外および特定の免除
適用除外
PFOS、その塩及びPFOS関連化合物は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質(UTC)として存在する次の場合を除外する規定があります。
物質、混合物または成形品中のUTCとしてPFOSまたはその塩の濃度が0.025mg/kg(0.0000025重量%)以下;
物質、混合物又は成形品中のUTCとして全てのPFOS関連化合物の組み合せの濃度が1mg/kg(0.0001重量%)以下。
特定の免除
2025年6月27日の改正により、非装飾用硬質クロム(VI)めっきのミスト抑制剤としてのPFOSの使用に関する特定適用除外が廃止されます。硬質クロムめっきのミスト抑制剤としての使用に関する加盟国レベルで収集された情報から、PFOSの用途がEU域内で代替されたことが確認されます。また、PFOSに関する分析方法の適用性も削除されます。
4.1.2 PFOAとその塩及びPFOA関連化合物
CAS番号:335-67-1等
EC番号:206-397-9等
適用除外および例外措置
適用除外
PFOAとその塩及びPFOA関連化合物は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質(UTC)として存在する次の場合には適用除外となります。
物質、混合物又は成形品に含まれるPFOA又はその塩の濃度が0.025mg/kg(0.0000025重量%)以下;
物質、混合物又は成形品に含まれるPFOA関連化合物又はそれらの組み合せの濃度が1mg/kg(0.0001重量%)以下;
6原子以下の炭素鎖を持つフルオロケミカルの製造において、PFOA関連化合物がEU REACH規制第3条15項(c)に定める輸送単離中間体として使用される物質中に存在する場合、濃度は20 mg/kg(0.002重量%)以下;
電離放射線照射または熱分解によって生成されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)マイクロパウダー、及びPTFEマイクロパウダーを含む工業用・専門的用途の混合物および成形品中に存在するPFOAとその塩の合計の濃度制限を1mg/kg(0.0001重量%)にする場合には、2023年8月18日までに製造・上市・使用禁止が適用除外;
侵襲型機器及び埋め込み型器具以外の医療器具に含まれるPFOA、その塩及び/又はPFOA関連化合物の濃度が2 mg/kg(0.0002重量%)以下。
最近の改正により、PFOAは泡消火薬剤の中にUTCとして存在する場合(4a及び4b)を除外する規定が導入されました。
システムに既に設置されている液体燃料蒸気抑制および液体燃料火災(クラスB火災)のための泡消火薬剤の中にUTCとして存在するPFOA又はその塩については、発効から3年経過後に適用される限度値が1mg/kg(0.0001重量%);
システムに既に設置されている液体燃料蒸気抑制および液体燃料火災(クラスB火災)のための泡消火薬剤の中にUTCとして存在するPFOA関連化合物の一つ又は組み合わせについては、発効から3年経過後に適用される限度値が10 mg/kg(0.001重量%);
有機フッ素化合物を含まない泡消火薬剤の中にUTCとして存在するPFOA、その塩およびPFOA関連化合物の合計が利用可能な最善の技術に従って洗浄を受けた消火設備に由来する場合には、限度値が10mg/kg(0.001重量%)。
例外措置
0.025mg/kg(0.0000025重量%)の制限値以下にする目的で輸送または処理されるPTFEマイクロパウダーに含まれるPFOAとその塩の場合には、1mg/kg(0.0001重量%)の制限値が製造・上市・使用のみに適用されます;
以下の用途として、PFOAとその塩及びPFOA関連化合物の製造・上市・使用が許可されます。
2025年7月4日まで、半導体製造におけるフォトリソグラフィーまたはエッチングプロセス;
2025年7月4日まで、フィルムに施される写真用コーティング;
2023年7月4日まで、労働者の健康と安全を害する危険な液体から作業用保護のための撥油・撥水繊維製品;
2025年7月4日まで、侵襲性及び埋込型医療機器;
以下の製品に用いられるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造については2023年7月4日まで許可されます。
高機能性の抗腐食性ガスフィルター膜、水処理膜、医療用繊維に用いられる膜;
産業用廃熱交換器;
揮発性有機化合物及びPM2.5 微粒子の漏洩防止可能な工業用シーリング剤。
PFOA、その塩、およびPFOA関連化合物が移動式及び固定式の両方を含むシステムに既に設置されている液体燃料蒸気抑制および液体燃料火災(クラスB火災)のための泡消火薬剤に使用される場合には、適用除外期限が2025年7月4日から2025年12月31日まで延長されます。
医薬品の製造を目的としたヨウ化ペルフルオロオクチルを含む臭化ペルフルオロオクチルの使用は 2026 年 12 月 31日まで許可されます;
2020年7月4日前に使用されているPFOA、その塩及び/又はPFOA関連化合物を含む成形品の使用は許可されます;
埋め込み型以外の医療機器、ラテックス印刷インキ、プラズマナノコーティングについては2020年 1月3日まで許可されます。
4.1.3 PFHxSとその塩およびPFHxS関連化合物
CAS番号:355-46-4等
EC番号:206-587-1等
適用除外および例外措置
適用除外
PFHxSとその塩およびPFHxS関連化合物は原則的に製造・上市・使用が禁止されていますが、物質、混合物又は成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する次の場合を除外する規定があります。
物質、混合物又は成形品に含まれるPFHxS又はその塩の濃度が0.025mg/kg(0.0000025重量%)以下;
物質、混合物又は成形品に含まれるPFHxS関連化合物の組み合せの濃度が1mg/kg(0.0001重量%)以下;
使用される、又は他の泡消火薬剤混合物の製造用の濃縮された泡消火薬剤混合物中に存在するPFHxS、その塩およびPFHxS関連化合物の濃度が0.1mg/kg(0.00001重量%)以下。
4.2 今後予想される規制
2025年11月21日、欧州委員会は、POPs規則の附属書Iを改正し、長鎖ペルフルオロカルボン酸 (C9-21 PFCAs) を追加することを提案する委任規則案を公表しました。これらの物質については、製造・上市・使用がEU域内で原則禁止とされ、特定の非意図的な微量汚染物質(UTC)としての限度値および重要な分野に対するいくつかの期間限定的な例外措置が設定される予定です。
意図的な微量汚染物質(UTC)としての限度値
C9-21 PFCAsおよびその塩:0.025 mg/kg(0.0000025%);
関連化合物:0.26 mg/kg(0.000026%)。
特定の適用除外
輸送される単離中間体: 6原子以下の炭素鎖を有するフッ素化合物の製造において、濃度は10 mg/kg(0.001%)以下;
フッ素樹脂/フッ素エラストマー: パーフルオロアルコキシ基を持つ材料中のC9-21 PFCAsの合計濃度は0.1 mg/kg(0.00001%)以下 (成形品を除く);
PTFEマイクロパウダー: 濃度を0.025 mg/kg未満にする目的で輸送/処理される場合、濃度は1 mg/kg(0.0001%)以下。
期間限定的な例外措置
内燃機関船舶および旧型陸上自動車の交換部品として使用される半導体に使用される場合は、2030年12月31日まで許可されます。
5.関連記事及びセミナー
CL-JP記事:
欧州連合 クロルピリホスをPOPs規則の規制対象として追加(2026年7月9日)
EU クロルピリホス、MCCPsとC9-21 PFCAsをPOPs規則に追加することを提案(2025年12月1日)
欧州連合 POPs規則によるPBDEs規制を強化(2025年10月31日)
欧州連合 デクロランプラスをPOPs規則の禁止物質として追加(2025年9月28日)
欧州連合 POPs規則に基づきPFOSに対する規制を強化(2025年7月3日)
EU委員会 UV-328及びPFOAに関するPOPs規制の改正案を採択(2025年5月15日)
欧州POPs規則 PFOSに関する特別な免除を改正(2025年4月22日)
EU POPs規制に基づくPCBおよびPBDEの限度値改正を検討(2025年2月27日)
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