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米国TSCA―「有害物質規制法」
米国規制:
有害物質規制法
Toxic Substances Control Act (TSCA)
主管部門
米国環境保護庁(EPA)
沿革
承認日1976年10月11日
発効日1977年1月1日
改正の経緯
2016年6月22日ローテンバーグ法(TSCA改革法案)
主な関連規制
1981年PCBs廃棄物処理規則
1982年学校におけるアスベスト管理の規則
1986年アスベストの危険緊急措置法
1988年屋内ラドンの削減法

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1.1 TSCAの概況

 米国環境保護庁(EPA)が所管する有害物質規制法(TSCA)は、人の健康又は環境への影響の不当なリスクを防止することを目的として、米国における有害な化学物質および混合物の製造・輸入・加工を規制する法律です。

  • 歴史

  

  • 内容構成

 TSCA法案は以下の6つの節からなっています。

  1. 有毒有害物質の制御

  2. アスベストの危険緊急措置(1986年追加)

  3. 屋内ラドンの削減(1988年追加)

  4. 鉛ばく露の低減(1992年追加)

  5. 健康で高性能な学校のために(2007年追加)

  6. 複合木製品のためのホルムアルデヒド基準(2010年追加)

  • 物質の分類

  1. 既存化学物質(公開部分+機密部分):アクティブ状態(active)+インアクティブ状態(inactive)

  2. 新規化学物質


1.2 既存化学物質リスト(TSCAインベントリー)

 EPAはTSCA第8条(b)に基づき、商業目的のために米国で製造・輸入・加工される化学物質を収載するTSCAインベントリーの作成・更新・公表を行っています。そして、TSCAインベントリーに収載されている物質は既存化学物質と見なされます。一方、インベントリーに収載されていない物質は新規化学物質と見なされます。

 企業からの報告を踏まえ、EPAは1979年に最初のインベントリーを公表し、1980年に改正しました。現時点で、インベントリーには86,000以上の化学物質が収載されています。

  • 更新頻度

 TSCAインベントリーの非機密部分は、およそ半年に一回更新されます。
最終更新:2023年2月

  • 対象範囲

1.インベントリーに収載される化学物質は、以下となります。

1)有機物;
2)無機物;
3)ポリマー;
4)UVCBs(未知または可変組成の物質、複雑な反応生成物および生物材料)。

2.次の化学物質については、その用途がTSCA以外の法律によって規制されるため、インベントリーの収載対象となりません。

1)殺虫剤;
2)食品、食品添加物;
3)医薬品;
4)化粧品;
5)タバコ及び関連製品;
6)核物質;
7)軍需物資など。

  • インベントリーに収載させる方法

 製造前届出(PMN)の審査が完了した後、PMNを提出した企業が製造または輸入前30日以内に開始届出(NOC)を提供すると、米国環境保護庁(EPA)は当該物質をインベントリーに収載し、その物質は既存化学物質となります。それにより、企業は商業目的のために製造・輸入・加工を行うことが可能です。

 ただし、以下の免除申請・届出を事前に行う場合、当該物質はインベントリーに収載されることができません。

  1. 少量免除(LVEs);

  2. 環境放出または人への暴露が低い物質免除(LoREXs);

  3. 試験販売免除(TMEs);

  4. R&D目的免除;

  5. 「ポリマー免除規定(1995年改正版)」に適合するポリマー免除。

  • インベントリーへの収載の有無の調査方法

  1. 機密性のないインベントリ(non-confidential Inventory)をダウンロードします;

  2. EPA公式サイトで検索します。


1.3 既存化学物質のコンプライアンス対応と義務

  • 化学物質輸入陳述証明書

 輸入業者は有害物質の輸入に際して、「貨物がTSCAの規則または命令に適合していること(ポジティブ証明書)」または「貨物がTSCAの対象外であること(ネガティブ証明書)」を示す輸入陳述証明書を米国税関国境保護局(CBP)に提出する必要があります。

 ただし、特定製品を除き、輸入されるたばこやアーティクルの一部に含まれる各化学物質について輸入陳述証明書を提出する必要はありません。特定製品とは、殺虫剤(中間体を除く)、食品、食品添加物、医薬品、化粧品、放射性物質などです。他の連邦法によって規制されている物品はネガティブ証明、貨物がTSCAの対象である場合はポジティブ証明が必要です。

  • 重要新規利用規則(SNUR)

 リスクアセスメントを行なった結果、その物質に関するリスクを評価する十分な情報がなく、かつ(1)人や環境に不当なリスクをもたらすおそれがある、又は②相当な量の環境への放出若しくはばく露のおそれがある、と判断した化学物質の製造、輸入又は利用に対して制限又は禁止するものである。EPAがそれらのおそれが無くなった、と判断すれば、その物質に対する規則を撤回する場合もある。

 そして、既存化学物質のSNURは、通常、EPAの汚染防止有害物質部(OPPT)のリスク管理スクリーニングプロセスで審査後、提案されるものです。

  • 化学品データ報告(CDR)規則

  1. 概要:「TSCAインベントリー」に収載されている既存化学物質を米国国内で製造または輸入する事業者は、EPAに対象化学物質の基本情報を4年ごとに報告しなければなりません;

  2. 報告内容:陳述書類、会社と工場の情報とアドレス、物質情報(種類、量)、技術と用途の情報等;

  3. 対象事業者:1)商業目的のために、4年間にいずれか1年間で年間生産量/輸入量25,000ポンド(約11,340kg)以上製造または輸入した者;2)商業目的のために、重要新規利用規則(SNUR)などの特定の規制対象を2,500ポンド(約1,134kg)以上製造または輸入した者。

1.4 新規化学物質のコンプライアンス対応と義務

  • 概要

 TSCA第5条に基づき、米国国内で商業目的のために新規化学物質の製造を意図する製造者は、関連活動を開始する90日前までにEPAへ製造前届出(PMN)を提出することが要求されています。

 上述の「新規化学物質」とは、TSCAインベントリーに収載されていない化学物質を指します。ただし、以下の場合は製造前届出(PMN)の提出が不要です。

  1. TSCAの「化学物質」の定義から除外されているもの:農薬、たばこ、食品、医薬品等;

  2. 混合物(ご注意:混合物における新規化学物質は届出が必要となる);

  3. 少量の研究開発用化学物質;

  4. 輸出専用品;

  5. 不純物、商業目的に使用されない副生物、単離されない中間体等;

  6. 成形品。

  • PMN届出

1.必須情報

順番届出項目
1届出者のアイデンティティ
2物質の化学的識別情報(CAS名やCAS番号等)
3不純物(名称、CAS番号、重量%)
4別名または商品名
5副生成物に関する記述
6最初の1年間に製造又は輸入される推定最大量等
7用途情報(用途カテゴリー、カテゴリーごとの生産量の推定等)
8有害性情報(有害性警告陳述、ラベル、MSDS、保護具等)
9提出者により管理される場所に関する情報(製造場所、プロセス、作業者のばく露及び環境への排出)
10提出者により管理されない場所に関しての加工及び使用操作の記述(加工・使用場所の推定数、作業者のばく露・環境排出の状況、ばく露される労働者数と期間等)

2.追加データ

1)届出者の所有または管理下にある試験データ:健康影響データ、生態学的影響データ、物理化学的性質に関するデータ、環境運命特性、人ばく露又は環境排出関連のモニタリングデータ/他の試験データ;

2)届出者によって知られ、又は確認される他のデータ:試験データ以外のデータ、管理下にはない他のデータ。

  • PMN免除届出

 PMN届出の特例制度とは、少量免除(LVE)申告、環境放出または人への暴露が低い物質免除(LoREX)申告、及び試験販売免除(TEM)申告を指します。それらは事前申請等が必要であり、事後はインベントリーに収載できません。また、輸入者の変更がある場合、改めて申告しなければならなりません。

種類審査期間条件
LVE申告30日≤10 t/y
LoREX申告30日

 一般住民に対し:

  1. 経皮ばく露なし;

  2. 吸引ばく露;

  3. 飲料水からのばく露≤1kg/y。

TEM申告45日試験販売により、健康または環境に不当なリスクをもたらさない。

 そして、要求される情報は以下となります。

  1. LVE申告/LoREX申告の要求される情報:健康影響データ、生態学的影響データ、物理化学的性質に関するデータ、環境運命特性、人ばく露又は環境排出関連のモニタリングデータ/他の試験データ;

  2. TEM申告の要求される情報:届出者のアイデンティティ、物質の化学的識別情報(CAS名やCAS番号等)、不純物(名称、CAS番号、重量%)、別名または商品名、副生成物に関する記述、提出者により管理される場所に関する情報(製造場所、プロセス、作業者のばく露及び環境への排出)、届出者の所有または管理下にある試験データ、生産量、用途カテゴリー、届出の種類(TSCA第5条(h)項(4)号免除届出であること)、カテゴリー(LVEかLoREXか)及び審査期間満了後1年以内に製造開始を意図していることの証明。

1.5 関連記事及びセミナー

  • CL-JP記事

  1. 米国EPA 約300のPFASに係る重要新規利用規則を提案、商業的再利用へ圧力を高める(2023年2月10日)

  2. 米国EPA 2020年TSCA化学品データ報告の情報を公布(2022年5月20日)

  3. 米国EPA アスベストに関する報告及び記録保存の要件を提案(2022年5月16日)

  4. 米国EPA アスベストの継続使用を禁止する規則案を提案(2022年4月25日)

  5. 米国EPA PFASの商業的利用の規制に向けた動きを開始(2022年3月31日)

  6. 米国EPA TSCA下の8物質のリスク評価を支援するための追加的テスト命令を公布(2022年3月30日)

  7. 米国EPA PIP(3:1)規制の遵守時期の再延長に関する最終規則を発表(2022年3月15日)

  8. 米国EPA TSCAインベントリーの修正に関するガイドラインを改正(2022年3月14日)

  9. 米国 TSCA料金の改訂が2022年1月1日から発効(2022年1月25日)

  10. 米国 TSCAに基づく使用者料金規則の改訂を提案(2021年1月14日)

  11. 米国 20/20、TSCAはこれからのリスク評価対象物質を確定(2020年4月2日)

  • CL-JPセミナー

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