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専門家記事:エッセンシャルユースに関する欧州委員会コミュニケーション

 この間、欧州委員会はエッセンシャルユースの概念に関するコミュニケーション(指針)を発表しました。これについて、弊団体の政策専門家3人の見解を聞きました。そのうち、注目すべき点は以下の通りです。


2024年5月6日発表


 まず、欧州委員会が発表したコミュニケーションは、長い間待ち望んでいたものです。「持続可能な化学物質戦略」によると、これは2〜3年前に発表されていたはずです。しかし、その待っている時間は決して無駄ではありません。

 エッセンシャルユースの概念に関する欧州委員会のコミュニケーションは、化学物質戦略に対する重要なコミットメントを想起させ、最も有害な化学物質の段階的な廃止の必要性と、代替物質が利用可能であればエッセンシャルユースとはみなされないという事実の両方を明確化するものです。

前向きな考え方

 最も有害な化学物質による悪影響の防止に焦点を当てることは、明確かつ誤解の余地がないです。この点は非常に重要です。

 また、この概念を理解しようとする際、欧州委員会が適切な用語を使用することも重要です。エッセンシャルユースは、最終的に「最も有害な化学物質を使用することが正当化される場合は?」という根本的な問題に帰結します。この点で、当該コミュニケーションは的確です。

「より安全な代替品が利用可能であれば、エッセンシャルユースとはみなされない」

 欧州委員会は、より安全な代替品が利用可能であれば、たとえ医療用途であっても(免除の理由として検討されることもある)、エッセンシャルユースとはみなされないことも明確化します。

 「社会に必要不可欠」だからといって、免罪符にはなりません。これは、利用可能な代替品がなく、より安全な代替品が利用可能になる場合のみ可能です。

 代替品と言えば、本コミュニケーションでは、より安全な代替品はある化学物質を異なる化学物質で置き換えるものに限定されるものではない、ということが何度か言及されています。その代わりに、代替案は全く異なる技術やプロセスの可能性もあり、他の製品や材料など対象機能を十分に代替できるものです。社会はその機能と性能レベルを受け入れることが可能であれば、それで十分です。ブラボー!

懸念された問題と落とし穴

 何が健康や安全に必要不可欠か、また社会機能にとって重要かについて、基準は非常に幅広いです。ヘルスケア、食品包装又は防衛などを含む全産業分野は、この概念から除外されないことが極めて重要です。エッセンシャルユースという考え方は、むしろこれらの分野における特定の用途に適用されます。コミュニケーションでは、幸いなことに、それぞれの用途は評価を受けることが強調されているため、心配する必要はありません。

 エッセンシャルユースという概念の目的は、効率的かつ効果的に意思決定を行うことです。しかし、やり方を間違えると逆効果になりかねません。また、複雑になりすぎた場合、「分析麻痺」が起こり、意思決定に遅れが生じる恐れがあります。

 この問題に対して解決策の一つは、特定の製品群を一律にエッセンシャルユースの概念から除外することです。注目すべき一つの業界例は、化粧品への有害な化学物質の使用が決して正当化できないことです。残念ですが、このコミュニケーションは非エッセンシャルユース又は(サブ)セクターについて言及していないです。

「言うことと行うことは別のことです」

 このコミュニケーションは、代替案に関する既存の実現可能性評価が使用されるべきであると指摘しています。しかし、これは問題の可能性があります。REACHに基づく代替案の評価プロセスは、成功例ではありません。例えば、代替案の可視性や解決策提案者の視点は、十分に盛り込まれておらず、プロセスの初期段階にも導入されていなかったです。これは今後非常に重要であるため(エッセンシャルユースという観点からだけでなく)、修正する必要があります。

 一方、より前向きな点として、当該コミュニケーションは、評価は「ユーザーごと」の代わりに、「用途ごと」に行う必要があると述べています。これは、少なくともREACH認可のシステムに基づき実施されてきた不十分な評価方法と比較して改善されるでしょう。

 エッセンシャルユースという概念が作用を発揮するには、関連するすべての法規制に段階的に導入する必要があります。そのため、代替案の可能性を認識し、分析麻痺に陥らないような代替案を評価するシステムの改善が必要です。正しい方法で行われれば、これは大いに必要なパラダイムシフトとなる見込みです。

 総じていえば、エッセンシャルユースという概念に関する欧州委員会のコミュニケーションは一見、素晴らしいものに見えますが、言うことと行うことは別のことです。最終的に、この概念がどのように実施されるかどうかは最も重要です。

注意:この記事に記された内容や意見は、著者の個人的見解です。


 本記事の著作権は、2002年に設立された国際化学物質事務局(ChemSec)に帰属します。なお、記事を日本語に翻訳して掲載することについて、当社とChemSecとの間で合意がなされています。ChemSecは、有害化学物質をより安全な代替品に置き換えることを提唱し、独立した非営利団体として活動しています。転載元:ChemSec

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