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インドREACH:化学物質(管理と安全)規制, 20XX

背景


 インドでは、REACHに類似した規制である「Chemicals (Management & Safety) Rules」が何年も前から進められています。2019年12月12日と2020年2月6日にそれぞれ旧バージョンの案を特定の化学業界団体に回覧した後、2020年3月16日に最終案を12の業界団体と共有し、2020年3月31日までコメントを受け付けました。公開協議のスケジュールはありません。当時の予定としては、2020年中にWTOに通知され、官報に掲載された日に発効することになりますが、コロナの影響もあり、今も正式に公布されたいない状態です。
 本規則は、「インド領内で製造、輸入、配置、または配置することを意図したすべての物質、混合物中の物質、中間体」に適用されます。製造者、輸入者、認定代理人(外国製造者に代わって指定されたもので、EUのREACHにおける「Only Representative」と同様)に対して、新規および既存の物質の届出と、登録が必要な物質の登録を求めています。また、人の健康や環境に対して許容できないリスクがあると評価された場合には、使用の制限や禁止が求められることもあります。
 また、既存の化学物質規制に関する別個の規則である「有害化学物質の製造、貯蔵および輸入に関する規則」(1989年)および「化学物質事故(緊急計画、準備、および対応)に関する規則」(1996年)も本規則に統合される見込みです。


適用除外

  • 本規則は、以下の項目に該当する物質には適用されない。

  • 放射性物質;

  • 税関監督下にあり、インド領内に置かれていない物質;

  • 再輸出を目的として免税地域に保管されている物質;

  • 有害廃棄物管理規則2016で定義されている廃棄物;

  • 国防目的で使用される物質;

  • 人体または動物が必要とする栄養素などを含む、人体または動物の食品または餌として使用される物質;

  • 別表 IV に記載されている物質。

 

主管機関

 化学物質規制部(欧州化学品庁と同様の役割)という届出・登録の評価、情報データベースの作成・維持、情報発信など、本規則の実施に関連するすべての機能を管理する政府部門が新設され、その下に次の8つの部署があります。

  1. 化学課

  2. 毒物学課

  3. 化学事故課

  4. 包装・ラベリング課

  5. 科学技術課

  6. 優先物質課

  7. 情報技術課

  8. 社会経済課

 さらに、運営委員会、科学委員会、リスク評価委員会という3つの委員会も設置されます。運営委員会は、部門の活動を監督し、年間予算を承認します。また、運営委員会は、科学委員会やリスク評価委員会と連携して、届出や登録を評価し、登録や使用の制限・禁止が必要な物質を特定します。

 

コンプライアンス

届出(1トン/年間以上の既存物質とすべての新規物質に適用)

 初回届出は、本規則制定後1年から180日以内に開始します。年間1トン以上の量のすべての既存物質の製造者、輸入者、または認定された代表者は初期届出期間中に届出が必要です。初期届出は国家化学物質インベントリの作成にも寄与します。一方、新規物質は、インド市場に上市される90日前に届出が必要です。

*「既存物質」とは、初回届出期間が終了する前に、インド国内で既に製造、輸入、供給、使用されているか、またはインド領内に既に置かれている物質や中間体のことを指します。「新規物質」とは、初回届出期間が終了後にインド国内に導入されたすべての物質および中間体のことをいう。

 別表Vでは、物質の特定、用途、数量、川下ユーザー、危険有害性の分類など、届出に必要な情報が規定されています。また、すべての届出者は、別表IXの形式で安全データシート(SDS)を提出し、川下使用者と共有することが求められます。川下ユーザーは、当該物質に関連するSDSに含まれていない用途に使う場合、当局に届出を出す上、SDSを新に提出しなければいけません。

 届出者には、審査中に課から要請があった場合、30日以内に補足を行うことができます。届出者が決められた期間内に補足できない場合は、当局の同意を得た上で、さらに30日間の猶予が与えられます。承認された場合、届出者に届出番号と証明書(Schedule XVIIIの形式)が発行されます。通知された物質が優先度が高いと判断されるかどうか、および/または登録の対象となるかどうかは、当局が判断します。

年次報告(すべての届出物質に適用)

 報告は各暦年の終わりから30日以内に更新しなければなりません。前の年に市場に出した物質の数量と、届出で提出された情報の変更/追加を含めます。

登録(別表VIに記載されている物質に適用)

 年間1トン以上の量を製造または輸入する場合に登録が必要な物質として、37物質が別表VIに記載されています。指定された物質は、vPvB物質、PBT物質、発がん性物質、生殖毒性や内分泌かく乱特性を持つ化学物質で構成されています。なお、共同登録は認められていますが、強制ではありませんのでご注意ください。

 化学物質規制部の中に設置される化学課は、届出データと物質がもたらすリスクを評価し、37物質に加えて登録が必要な物質を特定します。化学課は別表VIからの物質の追加または削除を科学委員会に勧告することができます。

 登録書類に必要な内容は、別表VIIで規定されています。さらに、年間10トンを超える数量のものには、化学物質安全性評価報告書(CSR)が必要です。 CSRの情報は、別表VIIIに概説されています。

 草案では、以前提案されていたトン数帯に基づく物質の登録のタイムラインが削除され、別表VIに含まれる物質の登録には、その物質が含まれた日から1年半のタイムラインが与えられるだけです。

 化学課と毒物学課は90日以内に登録書類を評価しなければなりません。登録者は、データの欠落を知らされてから90日以内に情報を補足しなければなりません。時間が足りない場合、登録者はは化学課にさらに90日の追加を申請することができます。登録が承認されると、登録者には登録番号と証明書(Schedule XVIIIの形式)が発行されます。また、登録者は変更情報を入手した後、30日以内に登録情報を更新する義務があります。

CBI

 届出・登録情報は、物質の分類とエンドポイント概要を除き、機密情報として申請することができます。CBI申請書には、(1)どの情報を機密扱いにするか、(2)その情報を機密扱いにする理由を明確にする必要があります。提供された情報が十分でない場合には、当局からさらなる情報提供を求められることになります。一方、草案では、機密保護の最大期間は明示されていません。

化学物質安全性評価(1t/yr以上の優先物質に適用)

 製造者、輸入者または認定代理人は、優先物質が年間10トン以上を扱う場合、化学物質安全性評価を行い、届出または登録と同時にCSRを提出しなければなりません。年間10トン以下の場合は、暴露シナリオ情報を提出する必要があります。

  • 優先物質とは、以下の危険有害性分類のいずれかに該当するものをいう。

  • CMR、カテゴリー1または2(GHS Rev.8による);

  • 特定標的臓器毒性(反復または単回暴露)、カテゴリー1または2(GHS Rev.8による);

  • 難分解性、生物蓄積性、毒性(PBT)また非常に難分解性もしくは非常に生物蓄積性(vPvB)の物質(別表Iに準じる);

  • 別表II(草案では750物質)に記載されている物質。

評価と制限

 優先物質課は、科学委員会およびリスク評価委員会と協議の上、すべての届出物質を評価し、優先物質の定義に該当する物質を特定します。これらの候補は、運営委員会に推薦され、最終的に別表IIに含めることになります。当局はス別表IIの優先物質を評価し、人の健康と環境に許容できないリスクをもたらすものとして、制限または禁止の対象となるかどうかを確認します。また、別表X、XI、XII(有害化学物質)やその他のリストへの追加や削除を勧告する場合もあります。最終的な決定は、社会経済的な影響評価と適切な代替品の有無に基づいて、リスク評価委員会が行います。企業は、制限物質の使用許可を申請することができます。承認された場合、4年間の期間が与えられ、一度だけさらに4年間延長することができます。

有害化学物質の管理

有害化学物質とは

  • 別表XのパートIに記載された基準のいずれかを満たす物質、または別表XのパートIIに記載された物質;

  • 別表XIのコラム2に記載されている物質;

  • 別表XIIのコラム2に記載されている物質;

 草案では、有害化学物質の輸送、産業活動の届出、輸入規制、現場の安全報告書、安全監査報告書、現場・現場外の緊急計画の作成、化学事故の届出などに関する規定も設けられています。詳細は第4章「安全と事故への備え」に規定されています。

GHS
 インドはまだUN GHSを採用しておらず、GHSを導入する時期も未定です。しかし、草案では、化学物質の分類について、UN GHS Rev.8を直接参照しています。

 届出物質のすべての提出側は、英語またはヒンディー語の最新のSDSを維持し、川下ユーザーと共有しなければなりません。別表IIの優先物質(750物質)及び別表Xの危険化学物質(669物質)もSDSの要求事項の対象となり、優先物質が0.1%(w/w)以上の濃度で存在する混合物も対象となります。ただし、SDSのフォーマット(別表IX)はGHS Rev.8に沿ったものではありません。

 草案では、優先物質および優先物質が10%(w/w)以上の濃度で存在する混合物にもラベルを付けることを要求しています。ラベルの要素は別表XVIIで指定されています。ラベル要素が包装自体に明確に示されている場合は、ラベルは省略可能です。

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