1.概要
REACHとは「Registration(登録), Evaluation(評価), Authorisation(認可) and Restriction(制限) of Chemicals(化学品)」の略であり、「化学品の登録、評価、認可および制限に関する規則」を意味しています。欧州連合(EU)REACH規則はEU域内の化学品を管理する欧州議会・理事会規則(EC)規則 No 1907/2006であり、2007年6月1日に施行され、2008年6月1日より本格運用が開始されました。
2007年の施行以来、EUの化学物質管理における最大の転換点の一つが、2025年に公布されたEU REACH規則の全面改訂提案です。しかし、EU委員のJessika Roswall氏は2026年4月27日、EU REACH規則の大幅な改定は現段階では進まないことを示唆しました。
2.化学品の分類
REACH規則における化学品は3種類があります:物質、混合物、成形品。
| 分類 | 定義 | 除外対象 |
| 物質(Substance) | 化学元素及び自然の状態での又はあらゆる製造プロセスから得られる化学元素の化合物(安定性を保つのに必要なあらゆる添加物や、使用するプロセスから生じるあらゆる不純物を含む)。 | 物質の安定性に影響を与えず、又はその組成を変えずに分離することのできるあらゆる溶剤。 |
| 混合物(Mixture) | 2 つ又はそれ以上の物質からなる混合物又は溶液。 | / |
| 成形品(Article) | 生産時に与えられる特定な形状、表面又はデザインがその化学組成よりも大きく機能を決定する物体。 | / |
3.事業者に要求される主な義務
EU REACH規則に基づき、事業者の対応・義務は、主に「物質登録」「認可申請」「制限遵守」の3つに分かれます。
| 分類 | 対象事業者 | 対応・義務 | 備考 |
| 登録 | EU域内で1事業者あたり年間1トン以上の化学物質を製造・輸入する者。 |
| 混合物中の化学物質および成形品から意図的に放出される化学物質も登録の対象。 |
| 認可 | 認可対象物質をEU域内で上市する者。 | 製造・輸入・使用に当たっては、日没日の18か月までに用途ごとに認可申請を行った上で、ECHAから認可を受ける。 |
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| 制限 | 制限対象物質そのもの、混合物または成形品中の物質をEU域内で製造・上市・使用する者。 | 当該化学物質を指定された制限条件内のみで製造、輸入、使用することが可能である。 | ECHAが実施したリスク評価の結果、人や環境に許容しがたいリスクがある場合には、その物質を「制限対象物質リスト(REACH規則附属書XVII)」に収載し、製造・上市・使用に制限を設ける。 |
4.登録
EU REACH規則は、「データがなければ市場なし(No Data No Market)」原則の下、欧州市場における化学物質の管理体系の基盤として運用されえてきました。これは、登録されていない物質そのもの、混合物中または成形品中の物質が製造または上市できないことを意味します。
4.1 登録範囲
登録が要求される物質と登録不要な物質は、下表の通りです。そして、登録不要な物質には、REACH規則が適用されない物質、登録が免除される物質、及び登録済みとみなされる物質が含まれています。
| 登録が要求される物質 |
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| REACH規則が適用されない物質 |
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| 登録が免除される物質 |
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| 登録済みとみなされる物質 |
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4.2 登録義務者
欧州化学品庁(ECHA)への登録の義務を負う者は、以下となります。
EU域内の製造者・輸入者:物質そのもの又は混合物に含まれる物質をEU域内において年間1トン以上製造または輸入する事業者;
EU域内の唯一の代理人(OR):EU域外の物質、混合物、成形品の製造者が指定するEU域内の唯一の代理人(OR)。
注意:EU域外の企業は直接登録できません。
4.3 登録の際に提出するもの
EU REACH登録時に提出が必要となるものは、「技術一式文書」及び「化学物質安全性報告書」(物質の年間製造/輸入量が10トン以上の場合)という2つの文書です。
4.3.1 技術一式文書(Technical dossier)の構成
| 順番 | 項目 |
| 1 | 製造者または輸入者のアイデンティティ |
| 2 | 物質のアイデンティティ |
| 3 | 物質の製造および使用に関する情報(登録者が特定するすべての用途を記述。該当する用途およびばく露カテゴリーを含めることができる) |
| 4 | 物質の分類および表示 |
| 5 | 安全な使用に関するガイダンス |
| 6 | 附属書Ⅶ~Ⅺの適用から試験結果の調査要約書 |
| 7 | 附属書Ⅶ~Ⅺの適用から試験結果のローバスト調査要約書 |
| 8 | 3、4、6、7又は(b)の情報のどれが適切な経験を持つ査定人によって審査されたかに関する示唆 |
| 9 | 附属書IX及びXの試験の提案 |
| 10 | 1~10トン/年の物質に関するばく露情報 |
| 11 | 第119条2項においてインターネット上での公開が求められている項目のうち、情報公開を拒否する項目とその理由 |
4.3.2 化学物質安全性報告書(Chemical Safety Report)の構成
| パート | 内容 |
| A | (1)リスク管理措置の概要; (2)リスク管理措置を実施しているという宣言; (3)リスク管理措置を通知しているという宣言。 |
| B | (1)物質の特定および物理化学的特性; (2)製造および用途; (3)分類および表示; (4)環境中運命の特性; (5)人健康有害性有害性評価; (6)物理化学的特性の人健康有害性有害性評価; (7)環境有害性評価; (8)難分解性・生物蓄積性・毒性 (PBT)/高持続性・高生体内蓄積性物質(vPvB)の評価; (9)ばく露評価; (10)リスクの特性。 |
4.4 登録手数料の引き上げ
2025年10月15日、欧州委員会は改正REACH手数料規則を採択しました。これにより、EU REACHに対する新しい登録手数料は、2025年11月5日から適用されます。一つ注意すべき点は、中小企業の競争力を維持するために登録手数料の引き上げが大企業のみに適用されることです。
改正後の大企業向け登録手数料の詳細は、下表のとおりです。

5.物質評価の優先対象
物質評価は、EU REACH規則(第44条~第48条)に基づくプロセスであり、化学物質の潜在的なリスクを明確化するための情報を生成することを意図します。欧州共同体ローリング行動計画(CoRAP)は、今後3年間にわたって物質の評価の優先対象リストとして位置づけられています。
収載対象となる物質については、EU加盟国の評価を経て、人の健康や環境へのリスクが十分に抑制されなければ、EU域内で制限、高懸念物質(SVHC)に指定されること、或いはEU REACH規則以外の法規制に基づく措置(例えば、調和された分類)というリスク管理措置が定められる可能です。
最近の更新により、2026年に17の物質、2027年に9の物質、そして2028年に1物質が評価される予定です。
6.高懸念物質(SVHC)
高懸念物質(SVHC: substances of very high concern)は、今後、認可対象物質となる可能性があるものであり、候補リスト(Candidate List)に収載されています。認可対象物質に指定される場合、企業は引き続き使用するために認可を申請する必要があります。
現在このリストに収載されているSVHC物質は合計253エントリーとなりました(最近の更新)。そのうち、化学物質群もあるため、影響を受ける化学物質全体の数はより多くなります。
6.1 SVHCの指定
次のような危険特性を持っている物質は、高懸念物質(SVHC)として指定される可能性があります。
EU CLP規則に基づき、発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)区分1Aまたは1Bに該当する物質;
REACH規則の附属書XIIIに基づき、難分解性・生物蓄積性・毒性 (PBT)或いは高持続性・高生体内蓄積性(vPvB)に該当する物質;
CMR物質またはPBT/vPvB物質と懸念相当レベルの物質。
6.2 法的義務
候補リストの収録対象となるSVHCを0.1%(w/w)以上含有する場合は、下記の義務が課せられます。
| 役割 | 主な義務 |
| SVHCが0.1%を超える物質または混合物の供給者 | REACH規則に従う安全データシート(SDS)を川下ユーザーに提供すること。 |
| SVHCが0.1%を超える成形品の供給者 |
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| SVHCが0.1%を超える成形品のEU域内の製造者、輸入者または唯一代表者(OR) | 成形品中のSVHC総量が1輸入者あたり年間1トン以上となれば、ECHAへのSVHC届出を行うこと。 |
7.認可
認可とは、人の健康と環境へのリスクが高い物質を管理し、より安全な物質・技術への代替を促進するための制度です。認可プロセスを経て、候補となる高懸念物質(SVHC)の中から認可対象物質が選ばれ、REACH規則の附属書ⅩⅣに収載されます。
認可プロセスは、以下を目的としています。
人の健康と環境に深刻な悪影響がありそうな高懸念物質(SVHC)を十分に管理;
経済的・技術的に代替可能な物質や技術への代替を促進。
2026年2月2日、欧州化学品庁(ECHA)は、4の物質をREACH認可対象物質リストに追加するよう勧告しました。現在、このリストに収載されている認可対象物質は合計59エントリーとなりました。
7.1 認可の申請
認可対象物質として附属書ⅩⅣに収載されると、製造者・輸入者・川下ユーザーは、当該物質を欧州経済領域(EEA)内で引続き使用または流通しようとする場合、日没日の18か月(いわゆる「申請の最終日」)までに特定の用途ごとに認可を申請する必要があります。ECHAから認可を受けないと、指定される日没日以降は使用又は流通できなくなります。
8.制限
制限は、化学物質による許容できないリスクから人の健康および環境を保護するために導入され、2009年6月1日から無効となった「指令76/769/EEC(危険な物質及び調剤の上市と使用の制限)」で定められた制限が引き継がれたものです。登録要否にかかわらず、附属書XVIIに掲載されている物質そのもの、混合物または成形品に含まれる物質に対して、製造・上市・使用を制限する必要があります。
8.1 制限対象物質
附属書XVIIに制限が設けられている物質そのもの、混合物または成形品中の物質については、制限条件に合致しない限り、製造・上市・使用が禁止されています。ただし、このことは科学研究開発目的の物質の製造・上市・使用に適用されません。
制限対象物質は随時更新され、2026年4月20日の最終更新により79エントリーに上りました。そして、物質の詳細はこちらです。
8.2 ユニバーサルPFAS制限案
ユニバーサルPFAS制限案は2023年2月に公布され、2025年8月に更新されたもので、EU REACHに基づき最も広範な規制措置の一つです。同制限案は、環境残留性が高く、さまざまな健康影響と関連があるPFASのリスクを緩和することを図っています。これはグループアプローチを活用し、特定の化学構造(C-F結合を含む)によって定義される10,000以上の物質を対象とし、残念な代替を防止します。
2026年3月、リスク評価委員会(RAC)が最終意見を採択しました。その後、社会経済分析委員会(SEAC)の草案書意見は2026年3月10日に承認され、SEACの意見形成プロセスにおける最終段階です。SEACが2026年末までに最終意見を採択する見込みです。RACおよびSEACの意見が最終化されれば、欧州委員会に送付されます。その後、欧州委員会は最終規則を提案します。この提案は、REACH委員会でEU加盟国の検討および投票により決定されます。
物質自体、混合物および成形品の製造、上市(輸入を含む)および使用を禁止し、制限範囲は広範に及びます。この制限案から唯一除外される主な用途は泡消火薬剤です。これは、2025年10月に欧州委員会が採択した別の規制の対象となります。
9.EU REACHの大幅改訂提案
2025年4月、ECHAはREACH規則の全面改訂案を発表しました。提案内容は、登録内容の更新、ナノ材料の定義、サプライチェーンのデジタル化、認可および制限プロセスの簡素化、税関執行の強化など、主要分野を網羅しています。
特に注目すべき点は、登録有効期間は統一して10年とされ、登録文書が更新されていない場合や不適合が発見された場合、ECHAは登録番号を取り消す権限を持つことになることです。
しかし、産業界から懸念の声が上がり、技術的課題や利益の均衡などの問題点が浮き彫りになった中、欧州委員会は「規制の安定性」への転換を示す動きとして、長らく待たれていたREACH規則の全面的な見直しを行わないことを確認しました。そのかわりに、技術的な微調整および執行強化という「簡素化アプローチ」を選択する方針です。