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英国版REACH規則

1. UK REACH規則とは

 EU離脱の移行期間の終了後、英国独自の化学物質規制枠組みであるUK REACH規則は、「化学品の登録、評価、認可および制限に関する欧州議会および理事会規則(EC)No 1907/2006」(EU REACH規則)の代わりに、「2018年EU 離脱法」に基づいて導入されました。

 これをうけ、2021年1月1日から、化学物質を英国で製造・販売・流通する事業者はUK REACH規則に従わなければなりません。ただし、EU REACH規則の主な原則は英国市場に合うように変更された上で維持されます。一方、北アイルランドでは、ビジネス活動に支障が出ないようにEU REACH規則が「北アイルランド議定書(Northern Ireland Protocol)」基づいて引き続き適用されます。

1.1 UK REACH規則の目的

  • 化学物質の使用から人の健康と環境を高レベルで保護する;

  • 製造者と輸入者が化学物質の使用によるリスクを理解・管理できるよう支援する;

  • 定量的構造活性相関(QSAR)や構造類似物質から毒性を予測する(read across)等といった物質の危険特性を評価するための代替法の活用を促進する。

1.2 UK REACH規則の所管当局

英国安全衛生庁(HSE:Health and Safety Executive)。

2. 法的根拠

 適用法令は「2019年REACH等(改正等)(EU離脱)規則」(2019 No.758)、及びそれを改正する下記の規則です。

3. 影響を受ける事業者

 UK REACH規則に基づき、年間1トン以上の物質を製造、またはグレートブリテン(GB)域外から輸入する場合は、英国安全衛生庁(HSE)への登録が必要となります。一方、一部の企業はUK REACHに登録する必要がありません。その他、UK REACH下で新たな義務を履行すべき企業もあります。

 詳細は下表の通りです。

影響を受ける事業者

義務事項
製造者(物質を合成、精製または抽出する者)物質のUK REACHへの登録が必要です。
輸入者(欧州連合(EU)/欧州経済領域(EEA)、北アイルランド又はその他の地域からGBへの輸入を行う者)GB域外の供給者がGB拠点の輸入者の義務を負うORを指定した場合を除き、UK REACH下で当該物質の登録を保有することが必要です。
UK REACH規則下の輸入者となったEU REACH規則における川下ユーザー移行期間終了前にEU/EEAから化学物質を輸入し、EU REACH下で登録を保有していたGBの川下ユーザーがUK REACH規則における輸入者になる場合は、輸入する物質のUK REACHへの登録を確認することが必要です。
川下ユーザー(GB拠点の製造者/輸入者ではなく、事業活動の過程において化学物質を直接取り扱う企業または個人事業者)EU REACH規則における川下ユーザーがEU/EEAから化学物質を輸入する場合はUK REACH規則下の輸入者となり、安全衛生庁(HSE)への登録が必要です。
唯一の代理人(OR)輸入者の負担を軽減し、物質のGB市場への輸入を続けるため、GB域外の製造者はUK REACH規則の第8条に基づき、GB拠点の輸入者の義務を担うGB域内の唯一の代理人(OR)を指定することが可能です。
流通者(物質または調剤中の物質の貯蔵・上市を第三者のために行い、当該物質を直接取扱わない者)輸入者の義務を負わない場合には、REACHへの登録をする必要はありません。ただし、安全データシート(SDS)等を通じてサプライチェーンにおける情報伝達を行う責任があります。
調合者(物質および/または混合物の混合により製造する混合物をサプライチェーンの川下または消費者に直接供給する企業)輸入者の義務を負わない場合には、REACHへの登録をする必要はありません。

4. UK REACH規則の枠組み

 詳細は下図をご参照ください。

5. 経過措置

5.1 川下ユーザーの輸入通知(DUIN:Downstream User Import Notification)

 移行期間終了前に、グレートブリテン(GB)を拠点とする川下ユーザー又は販売者は自社でEU REACH規則に登録しておらず、UK REACH規則が発効した時点で輸入者になります。これにより、既存取引への混乱を最小限に抑えることが可能です。

 そして、2021年1月1日以降、GBの川下ユーザーは欧州連合(EU)からの輸入を続けるため、「川下ユーザーの輸入通知(DUIN)」を2021年10月27日までに安全衛生庁(HSE)に提出する必要があります。その上で、移行期間終了後の2年、4年、6年以内にUK REACH規則への登録を行わなければなりません。また、DUINを提出しない場合は、年間輸入量1トン以上の物質について全ての登録情報を提供するか、それとも輸入停止をする必要があります。一方、GB域外の製造者、調合者または成形品製造者は、選定したGB拠点の唯一の代理人(OR)にDUINを提出させることができます。

5.2 グランドファザリング

 グレートブリテン(GB)を拠点とする次の事業者が保有するEU REACHの既存登録については、その登録が移行措置であるグランドファザリングに適用されます。

  • GBに拠点を持つ製造者および輸入者;

  • GB拠点の唯一の代理人(ORs: Only Representatives);

  • 2017年3月29日以前に、或いは2020年12月31日以降に保有するEU REACHの既存登録をEU拠点法人に移転したGB拠点法人。

 そして、EU REACHの登録保有者となるGB拠点事業者は、2021年4月30日までに下記の基本的な情報を安全衛生庁(HSE)に提供しなければなりません。

  • EU REACHの既存登録を示す証拠(ECHA登録番号、ECHAにより指定された登録日やHSEが求めるその他の関連証拠を含む);

  • 登録者のアイデンティティ(当情報を通じてUK REACH-ITアカウントを作成できる);

  • 物質のアイデンティティ;

  • 物質の製造および用途に関する情報;

  • 物質の製造および用途に関する情報が評価者によるレビューを受けているかについての指摘;

  • 既存登録に係るECHAの決定通知(IUCLID 式文書のセクション13に添付されることが必要)。

 グランドファザリング手続きを完了したGBを拠点とするEU REACH の登録保有者は、扱う化学物質の量に応じて、2021年 10 月 28 日を起点として2年、4年、6年以内にHSEに登録に必要なすべての情報*を提出しなければなりません(UK REACH規則第10条)。

*UK REACH規則に基づく登録時の情報要件は、EU REACH規則のほうと同じです。

5.3 登録期限

 「グランドファザリング」及び「川下ユーザーの輸入通知」が適用されない場合には、製造または輸入を行う前に登録が必要です。

 UK REACH規則は「1物質、1登録」の原則の原則をそのまま維持しています。そして、同一物質の登録については「共同提出」が求められています。UK REACH規則に基づく登録のデータ要件は、EU REACH規則の要件と同様です。

 EU REACH規則で登録されていない物質の場合は登録が許可とされる前に、データ提出免除の適切な運用を考慮して、登録物質のトン数帯に応じた情報要件を満たさなければなりません。

 一方、EU REACH規則で既に登録されている物質を初めてイギリスへ製造または輸入しようとする場合は、登録を提出する必要もあります。ただし、他の登録者及びグランドファザリングによる登録者とデータを共有できるように、すべての情報の提出期限を延長することが可能です。これに該当する場合においては、第26条によるInquiry(照会)が成功した時点で通知されます。

6. その他の義務

6.1 評価

 英国安全衛生庁(HSE)及びその他の所管当局は、企業が提出した情報を評価することにより、登録書類と試験提案の品質を調べ、物質が人の健康と環境にリスクをもたらすかどうかを明確化します。

 UK REACH規則における評価は、次の三つの分野に焦点を当てます。

  • 登録者が提出した試験提案の審査;

  • 登録者が提出した書類のコンプライアンスチェック;

  • 物質評価。

 評価が完了されると、登録者はその物質に関する補足情報を提出することが求められる可能性があります。

6.2 成形品中のSVHC届出

 成形品中の「認可対象物質の候補となる高懸念物質(SVHC)リスト」収載物質が輸入者または製造者1人当たり年間1トン以上、かつ0.1% w/w以上である場合、成形品の輸入者と製造者はHSEへのSVHC届出が必要です。

6.3 認可

 グレートブリテン(GB)に拠点を持つ企業は、「認可対象物質リスト(附属書XIV)」に収載された物質を使用し続けるため、認可申請を行う必要があります。既存の認可対象物質リストについては、UK REACH に引き継がれています。

6.4 制限

 制限は、化学物質による許容できないリスクから人の健康と環境を保護するための手段として、物質の製造、上市(輸入を含む)又は使用を制限または禁止することです。

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