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欧州分類、表示、包装に関する規則(EU CLP規則)

1.EU CLP規則の概況及び最新動向

 2009年1月20日、「物質と混合物の分類、表示、包装に関する規則」、いわゆる「CLP規則 (EC) No 1272/2008)」は発効しました。これにより、EU市場に上市される物質および混合物の分類・ラベル表示・包装が明確に定められています。現時点でCLP規則は、従来の「危険物質指令(DSD)67/548/EEC」及び「危険調剤指令(DPD)1999/45/EC」に取って代わり、EU REACH規則で導入された分類・表示の関連規定を取り入れ、EU版GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)とも言えます。 

 2017年3月のCLP規則改正に伴い、毒性情報センター届出(PCN: Poison Centre Notification)は追加された附属書VIIIに基づき、2021年1月1日以降に強制適用されます。これをうけ、物理化学的危険性又は健康有害性を有する混合物をEUに上市する事業者は、EU加盟国の毒性情報センターへの届出を提出し、危険有害性があると分類された混合物のラベルで固有の処方識別子(UFI番号)を記載する必要があります。

 2022年9月20日、CLP規則改正の最新動向として、欧州委員会は新しい危険有害性クラスを導入する法律案を公布しました。2023年3月31日、CLP規則(改正)の附属書Iは発表され、次に掲げる6つの新しい危険有害性クラスが追加されました。これらの危険有害性クラスは、工業用化学品・日用化学品・農薬助剤・中間体・肥料などの化学製品に適用され、関連する化学産業に大きな影響を与えることが予想されます。

  1. 人の健康に対する内分泌かく乱物質(EDCs)区分1/区分2;

  2. 環境に対する内分泌かく乱物質(EDCs)区分1/区分2;

  3. 難分解性・生物蓄積性・毒性物質(PBT);

  4. 高持続性・高生体内蓄積性物質(vPvB);

  5. 難分解性・移動性・毒性物質(PMT);

  6. 非常に高い難分解性・移動性物質(vPvM)。

2.対象範囲

2.1 対象国

 CLP規則はEU加盟27か国に加え、欧州経済領域(EEA)に属するノルウエー、アイスランド及びリヒテンシュタインにおけるすべての産業部門に直接適用されます。これらの国では、製造者・輸入者・川下ユーザーは危険有害な化学品をEU市場に出す前に、危険有害性(ハザード)の分類、ラベル表示や包装を適切に行うことが義務付けられています。

2.2 対象物質

 EU域内で上市される物質または混合物のうち、次はCLP規則の対象となります。

  • 有害性があると分類される物質または混合物;

  • 有害性があると分類される物質を含有する混合物;

  • CLP規則附属書Iの第2.1部分に該当する爆発物。

2.3 適用対象外物質

 次の物質と混合物は、CLP規則の適用外となります。

  • 放射性物質および混合物;

  • 税関の管理下に置かれた物質(いかなる処理または加工も受けないもの;一時的に保管されているもの、再輸出の目的でフリーゾーン/フリー倉庫に置かれているもの、或いは輸送中のもの);

  • 単離されない中間体;

  • 上市されない科学的研究開発(R&D)のための物質及び混合物。

 その他、次に掲げる最終用途に該当する物質および混合物もCLP 規則の適用外です。

  • 医薬品(「指令2001/82/EC」);

  • 動物用医薬品(「指令2001/82/EC」);

  • 化粧品(「指令76/768/EEC」);

  • 医療機器(「指令90/385/EEC」及び「指令93/42/EEC」);

  • 食品または飼料(「欧州食品法(規則178/2002)」)

3.分類

 分類には調和分類(harmonised classification)と自己分類(self-classification)があります。CLP規則により、製造者・輸入者・川下ユーザーは物質または混合物を分類する時に、まず附属書VI表3.1に掲げる調和分類を調べ、その附属書に掲載がない場合には自己分類を行う必要があります。自己分類の目的は、物質又は混合物が物理化学的危険性、健康有害性及び/又は環境有害性を持っているかどうかを判断した上で、物質又は混合物の製造量を考慮ぜずに、製品を市場に出す時にサプライチェーンでの適切なラベルを通じて、こうした危険有害性の情報を伝達することです。これにより、分類は危険有害性情報伝達の出発点として位置づけられています。

 危険有害性があると判断され、それに応じて分類される場合、物質と混合物の製造者・輸入者・川下ユーザー・販売者、及び特定の成形品の製造者・輸入者は、消費者を含むサプライチェーンにおける他の利害関係者に危険有害性の情報を伝達する必要があります。

3.1 危険有害性の分類(GHSとの相違点)

 CLP規則に基づく危険有害性分類のルールは基本的にはGHSと同じですが、同一ではありません。なぜかというと、GHSが定める危険有害性クラスの一部はCLP 規則において採用されていない一方、CLP規則に追加された6つの新しい危険有害性クラスはGHSにおいて導入されていないからです。

 化学品の危険有害性の分類について、CLP規則とGHSとの比較は下表の通りです。

危険有害性クラスGHS改訂第9版による区分CLP規則による区分
爆発物区分1、区分2A、区分2B、区分2C不安定爆発物、等級1.1、等級 1.2、等級 1.3、等級 1.4、等級 1.5、等級 1.6
可燃性ガス区分1A(可燃性ガス、自然発火性ガス、化学的に不安定なガス(A及びB))、区分1B、区分2区分1、区分2
エアゾールエアゾール:区分1、区分2、区分3可燃性エアゾール:区分1、区分2
加圧下化学品区分1、区分2、区分3/
酸化性ガス区分1
高圧ガス圧縮ガス、液化ガス、深冷液化ガス、溶解ガス
引火性液体区分1、区分2、区分3、区分4区分1、区分2、区分3
可燃性固体区分1、区分2
自己反応性物質および混合物タイプA、タイプB、タイプCとD、タイプEとF、タイプG
自然発火性液体区分1
自然発火性固体区分1
自己発熱性物質および混合物区分1、区分2
水反応可燃性物質および混合物区分1、区分2、区分3
酸化性液体区分1、区分2、区分3
酸化性固体/区分1、区分2、区分3
有機過酸化物タイプA、タイプB、タイプCとD、タイプEとF、タイプG
金属腐食性区分1
鈍性化爆発物区分1、区分2、区分3、区分4/
急性毒性区分1・2、区分3、区分4、区分5区分1、区分2、区分3、区分4
皮膚腐食性/刺激性区分1(1A、1B、1C)、区分2、区分3区分1ー皮膚腐食性(1A、1B、1C)、区分2ー皮膚刺激性
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性区分1、区分2/2A、区分2B区分1(眼に対する不可逆的作用/眼に対する重篤な損傷性)、区分2(眼に対する可逆的影響眼/刺激性)
呼吸器感作性区分1(1A、1B)区分1
皮膚感作性区分1(1A、1B)区分1
生殖細胞変異原性区分1(1A、1B)、区分2
発がん性区分1(1A、1B)、区分2
生殖毒性区分1(1A、1B)、区分2、追加区分授乳に対する又は授乳を介した影響
特定標的臓器毒性ー単回ばく露区分1、区分2、区分3
特定標的臓器毒性ー反復ばく露区分1、区分2
誤えん有害性区分1、区分2区分1
水生環境有害性、短期(急性)急性1、急性2、急性3急性1
水生環境有害性、長期(慢性)慢性1、慢性2、慢性3、慢性4
オゾン層への有害性区分1オゾン層への有害性
人の健康に対する内分泌かく乱物質/区分1、区分2
環境に対する内分泌かく乱物質/区分1、区分2
難分解性・生物蓄積性・毒性物質(PBT)/PBT
高持続性・高生体内蓄積性物質(vPvB)/vPvB
難分解性・移動性・毒性物質(PMT)/PMT
非常に高い難分解性・移動性物質(vPvM)/vPvM

 注意:赤字の部分は、2023年4月20日に発効したCLP規則の新しい危険有害性クラスです。

3.2 新しい危険有害性クラス

 CLP規則(改正)の附属書Iは2023年3月31日に発表されました。これにより、次に掲げる6つの新しい危険有害性クラスは2023年4月20日に発効し、一定期間猶予することができます。これらの危険有害性クラスについて、適切な対応策はCL-JP記事をご確認ください。

危険有害性クラス猶予期間
人の健康に対する内分泌かく乱物質(EDCs)区分1/区分2
  • 物質

 EU域内で未上市の物質は2025年5月1日以降、この前に上市された物質は2026年11月1日以降、改正後の分類基準に従って適切に分類、表示および包装することが求められる。

  • 混合物

 EU域内で未上市の混合物は2026年5月1日以降、この前に上市された混合物は2028年5月1日以降、改正後の分類基準に従って適切に分類、表示および包装することが求められる。

環境に対する内分泌かく乱物質(EDCs)区分1/区分2
難分解性・生物蓄積性・毒性物質(PBT)
高持続性・高生体内蓄積性物質(vPvB)
難分解性・移動性・毒性物質(PMT)
非常に高い難分解性・移動性物質(vPvM)

 上表に示す危険有害性クラスが導入されたことをうけ、関連業者は包装に表示されるラベル、安全データシート(SDS)やREACH登録書類を更新する必要があります。その他、CLP規則の改正による分類の変更に応じて、包括的リスク管理アプローチ(GRA: The generic approach to risk management)に基づく予防的措置(包装要件、制限や禁止など)は自動的に発動されることになります。したがって、新しい危険有害性クラスに割り当てられる化学品の場合には、リスク評価を行うことなしに自動的に制限または禁止されることが予想されます。

4.ラベル表示 

 化学物質または混合物を危険有害性に応じて分類すれば、サプライチェーンを通じた危険有害性の情報伝達を行う必要があります。CLP規則は、次に掲げるラベル要素に関する詳細な基準を定めており、これらのラベル要素による危険有害性等の情報伝達を行えます。それに加えて、CLP規則は化学物質のリスク管理に係る多くの法規制の基礎となるものです。

  • 供給者の名称、住所、電話番号;

  • 包装に含まれる物質又は混合物の量;

  • 絵表示(pictograms);

  • 注意喚起語(signal words);

  • 危険有害性情報(hazard statements);

  • 注意書き(precautionary statements);

  • 補足情報(supplemental statements)。

 ここでは、ラベル・絵表示の寸法を紹介します。

包装の容量ラベルの寸法(ミリ)絵表示の寸法(ミリ)
3リットル以下可能であれば、少なくとも52×7410×10以上が可能であれば、少なくとも16×16
3リットル超過、50リットル以下少なくとも74×105少なくとも23×23
50リットル超過、500リットル以下少なくとも105×148少なくとも32×32
500リットル超過少なくとも148×210少なくとも46×46

 注意:ラベルの寸法は各包装の容量で要求される最小の寸法でなければなりません。

5.安全データシート(SDS)

 CLP規則はREACH規則に従う安全データシート(SDS)の基礎となり、有害化学物質の包装に関する要件を規定しています。

5.1 更新すべき場合

 既存のSDS はCLP規則に基づき、次の場合に更新が必要になります。

  • 危険有害性に係る新たな知見が入手可能;

  • REACH規則第31条(9)に記載されているその他の基準に従い、SDSの更新が必要。

 注意:新SDS規制は2021年1月1日より施行され、移行期間が2022年12月31日に終了する予定です。そのため、企業は自分の状況に応じて、期間内にSDSを更新することをお勧めです(CL-JP記事をご参照)。

5.2 更新箇所

  • 物質の特定濃度限界値(SCLs)、Mファクター又は急性毒性推定値(ATEs)の変更を含む、新規又は改訂された分類は、SDSのセクション2(危険有害性の特定)及びセクション3(組成/成分情報)に記載すること;

  • 新たな危険有害性情報をSDSのセクション16(その他の情報)に記載すること;

  • 新規または改訂された分類の根拠となる情報と調和させることを確認するため、SDSの他のセクションを見直すこと。

6.事業者の義務

 CLP規則の主な義務は、分類、表示、包装および届出にあります。EU域内で物質又は混合物を製造・輸入する者は対象となります。EU REACH規則と異なり、年間1トン以下の製品でも義務が発生します。

 詳細は下表のとおりです。

義務事項影響を受ける事業者具体的内容
自己分類 危険有害性があると分類される物質の製造者、物質又は混合物の輸入者、REACH規則に基づき爆発物/成形品の登録又は届出を義務付ける製造者或いは輸入者、混合物を製造する調合者を含む川下ユーザー。
  1. 調和分類を持たない物質、又は調和分類が特定の危険有害性クラスまたは区別のみを対象とする物質を製造/輸入/上市する場合には、トン数にかかわらず、市場に出す前に自己分類を行うこと;

  2. 調和分類および表示(CLH)の対象外となる混合物を市場に出す前に自己分類を行うこと;

  3. 科学技術の進歩を踏まえて、上市後の物質又は混合物の自己分類を再評価すべきかどうかを決定すること。

ラベル表示 危険有害性があると分類される物質又は混合物の製造者、輸入者、調合者を含む川下ユーザー、小売業者を含む販売者。
  1. 危険有害性があると分類される物質または混合物をEU域内で上市する前に、危険有害性等の表示をすること;

  2. CLP規則第4条(5)及び第5条~第16条に従って分類される物質又は混合物の場合、販売者は供給者から当該分類を引き継ぐことが可能(川下ユーザーは供給される物質又は混合物の組成を変化させない限り、同じ規則に適用)。

包装 危険有害性があると分類される物質または混合物の供給者。
  1. 物質または混合物を入れる包装材は、内容物が漏出しないように設計・材料すること;

  2. 包装および留め具の材料は、内容物によって破損されず、内容物と反応して危険有害な化合物を生成するおそれがないようにすること;

  3. 物質および混合物を一般公衆に供給する場合、包装材に子供には開けられない留め具および/または警告を備えること、といった包装を確実にすること。

届出

 次に掲げる物質をEU域内で製造又は輸入する者:

  • REACH規則で登録の対象となる物質(年間あたり1トン以上となる物質);

  • CLP規則に基づき危険有害性があると分類され、しかもEU域内に上市される物質;

  • EU域内に上市される混合物に含まれる物質で、CLP規則に定める濃度限界値を超えて混合物中に存在する物質。

次の情報はECHAに届け出ること。

  1. 製造者または輸入者のアイデンティティ;

  2. 物質のアイデンティティ;

  3. CLP規則による危険有害性分類;

  4. 補足的な危険有害性情報を含むラベル要素など。

7.PFASの管理

 現在のところ、次のPFASは調和分類・表示(CLH)制度の対象物質です。

  • ペルフルオロオクタン酸(PFOA);

  • ペルフルオロオクタン酸アンモニウム塩(APFO);

  • パーフルオロノナン-1-オイック酸(PFNA)及びそのナトリウム塩とアンモニウム塩;

  • ノナデカフルオロデカン酸(PFDA)およびそのナトリウムとアンモニウム塩;

  • パーフルオロヘプタン酸(PFHpA)。

 ECHAのリスク評価委員会(RAC)はまた、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluorooctan-1-ol (6:2 FTOH)の調和分類・表示(CLH)に関する意見を発表しました。EU加盟国及び欧州委員会は、同意見をCLP規則に盛り込むことを決定中です。

 CLP規則に基づき、危険有害性があると分類される物質の製造者、物質又は混合物の輸入者、REACH規則に基づき爆発物/成形品の登録又は届出を義務付ける製造者或いは輸入者、混合物を製造する調合者を含む川下ユーザーは、調和分類・表示(あれば)を使用することが義務付けられています。

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